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東京高等裁判所 昭和30年(ネ)1405号 判決 1957年12月25日

控訴人(被告) 社会保険審査会

被控訴人(原告) 町中ミスヱ

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、控訴代理人において

一、船員保険は国庫、被保険者及び船舶所有者の費用の負担において、主として被保険者の疾病、負傷、分娩、失業、老齢、廃疾、脱退又は死亡の保険事故に関し保険給付をするものであるが、疾病負傷給付、廃疾給付及び死亡給付にあつては、保険事故が職務上の事由によるものであるかどうかによつて、保険給付の内容、費用負担の区分に差別を設けている。すなわち、死亡給付は、原則として、死亡が職務上の事由によるものであるときには、遺族年金が支給され、死亡が職務上の事由によるものでないときには、寡婦年金などが支給され(船員保険法第三章第八節)、遺族年金の額は最終標準報酬月額の五月分であり、寡婦年金の額は二月分である。しかして、保険事故が職務上の事由によるものであるときは、然らざるときよりも保険給付が手厚いものとなるのは、これらの保険給付が船員法第十章が規定する船舶所有者の災害補償責任を代行するがためである。また職務上の事由による事故に対する保険給付に要する費用は、該給付が船員法第十章に規定する船舶所有者の災害補償責任に相当するものであるから、これに要する事務費とともに全部船舶所有者の負担とし、(船員法第九十五条)職務外の事由による保険事故に対する保険給付に要する費用は、国庫負担を除いて被保険者及び船舶所有者が折半負担することになるように算定されるものである。従つて、船員保険は船舶所有者がその費用の全額を負担する「災害補償保険」(船員法による船舶所有者の災害補償責任の危険分散を目的としたもの)と一部を国庫が負担し他を被保険者と船舶所有者が折半負担する「社会保険」(船員の危険を分散することを目的としたもの)との二種の保険から成り立つている。従つて船員保険の保険事故が職務上の事由によるものかどうかは、社会保険の場合に比し保険給付の面で差異を生ずるばかりでなく、当該事故に対し「災害補償保険」が適用されるかはたまた「社会保険」が適用されるか、換言すれば船舶所有者の災害補償責任を問うべきか否かの差異を生ずることとなる。(原判決が保険給付の面のみに着目して立論しているのは、この点において誤りである)

二、しかして、業務によつて生ずる災害については、使用者の無過失責任の原理の上に使用者に災害補償責任を設けているが、損害賠償の範囲は使用者の責任に関する民法七百十五条に準じ職務と相当因果関係にある範囲の損害、すなわち業務に起因して生じた疾病、負傷、廃疾又は死亡に限られるべきことはいうまでもない。このことは、陸上労働者に対する保険制度についても同様である。業務上の事由による事故に対しては、使用者がその費用の全額を負担する災害補償保険(労働者災害補償保険法による労働者災害補償保険)によつて保険給付が行われるのであるが、これは陸上労働者の業務上の事由による事故に対し労働基準法第八章が使用者に無過失責任の原理に基く災害補償責任を課しているからである。しかして労働基準法施行規則第三十五条は同法第七十五条第二項の規定を受けて、業務上の事由に疾病を三十八号にわたつて列挙し、第一号は業務上の事由による負傷に起因する疾病をあげ、第二号から第三十六号まではいわゆる職業病をあげ、第三十八号はその他業務に起因することの明らかな疾病と規定している。従つて、労働者災害補償保険法上疾病が業務上の事由によるものであるかどうかによつて判定する立場をとつていることが明らかである。

以上の如く、船舶所有者の災害補償責任は、使用者の災害補償責任の沿革からみても、陸上労働者に対する使用者の災害補償責任との比較からみても、職務と相当因果関係に立つ災害についてのみ問わるべきものであることが明らかである。しかして船員保険は、保険事故、給付金額、保険料等を統計的に勘案して出来ているものであるから、いわゆる職務上の死亡の意義についても、徒らに、拡張解釈をすることを許されない。拡張して解釈し、その適用範囲を広くすることは、この保険制度の基礎をはなれ制度自体の目的と安定とを害うことになるからである。

三、原判決は狭心症の発作が、町中勇の死亡の重要な原因であり、心筋変性症という素地のあるところに激しい労働がなされた為に狭心症の発作が生じたと認定しているので、同人の狭心症の発作が職務上の事由によるかどうかを考えるに、同人に冠状動脈の梅毒性変化に因る心筋変性症があつたことは同人の体質に起因することを示すものであつて、同人の職務に起因するものでないことが明らかであるので、狭心症の発作が職務に起因するものでないことが明らかである。もつとも町中勇の狭心症の発作が職務となにがしの関連のあることは想像されるが、その発生が職務と相当因果関係にあるものとはいうことができない。けだし、以西底曳網漁撈作業が激しい労働であることは争わないが、当該職務に従事する者はその労働に耐え得る体力が要求されているのであるから、その職務が激しい労働であるからというだけの理由でその職務中に発生した発作が職務に起因するものとはいえない。一般に以西底曳網漁撈作業に従事する甲板長が狭心症の発作をおこすことは通常考えられておらず、もし右作業と狭心症が相当因果関係にあるとすれば、甲板長として従事した者の多くが狭心症になつているはずであるが、左様な事実は全く存しないのである。

故に町中勇の発作は作業に関連して生じたものであるかも知れないが、職務と相当因果関係にあるものと断ずることは出来ない。

それ故に、例えば、当日の仕事が通常時に比して特別に激しかつたという様な事情があり、従つて通常時の仕事に耐え得るが当日の仕事には耐えることができなかつたというのであれば、当日の仕事と死亡との間に相当因果関係を認めて職務上の死亡と認めるを相当とするであろうが、第十五金章丸の乗組員の当日の仕事が特別に激しかつたことはこれを認めるべき証拠がないと思料する。

と述べ、被控訴代理人において

一、職務上または職務外の区別はいわゆる相当因果関係をもつて律すべきである。民事上因果関係論は、発生した事実からいかなる賠償責任を生ずるかという点について行われるが通例であり、刑事上のそれが一定の行為からいかなる結果が発生したと解すべきやの問題であるに比し若干の相違がある。しかして、本件のような行政上の問題については、民事上の因果関係論に近似するけれども、なおその結果がその業務との間に条件関係があるかどうかが中心課題であつて、刑事上の因果関係論の性質を充分に包含しているのである。従つて行政上の因果関係としては、労働者災害補償法において、使用者が労働者をその時間にその場所で働かせていなかつたならばその災害も生じなかつたのであれば、使用者はその災害に対して無過失責任を免れないものである。

二、労働基準法第七十五条は「業務上負傷し」と規定しているが、何が「業務上」であるかについては、同法施行規則第三十五条の第一ないし第三十六号でいわゆる職業病を定め、その間に相当因果関係を認め、同条第三十八号は「その他業務に起因することの明らかな疾病」と規定しているが、これは第一ないし第三十六号と異つた特別のものでなく、第一ないし第三十六号は第三十八号の例示規定であるから、「業務に起因することの明らかな疾病」は右職業病と同様に取扱うことを定めているのである。しかして、疾病とはその罹病のみをいうのでなく、既往の病気の増悪についても、それが業務に起因するものである限り、業務上の疾病である。控訴人は、作業によつて疾病が増悪された結果死亡した場合も、これを業務上の疾病なりというには、その作業に異常性がなければならぬというが、これは控訴人の独断である。法定の職業病については、作業との因果関係が必ずしも明らかでないのでこれを決定する一つの資料として作業に異常性があつたかどうかが問題となり得るだけで、すなわち異常性があつた場合は因果関係を設定する有力な根拠となり得るけれども、異常性のない場合即ち通常の作業中においても、作業に従事したためこれにより疾病の増悪が生じたときには作業上の疾病といい得るものである。

と述べたほか、いずれも原判決事実指示と同一であるので、ここにこれを引用する。(立証省略)

理由

一、訴外町中勇が船員保険の被保険者であつたこと、同人が訴外川南工業株式会社に船員として雇われ、第十五金章丸に乗組み、以西底曳網漁撈の目的で長崎港外香焼島を出港し、昭和二五年十月三十日午後二時頃漁場に到達し、以後漁撈に従事していたが、同年十一月三日死亡したこと、右勇の妻であつた被控訴人が勇の右死亡が船員保険法第五十条にいわゆる職務上の事由に因るものに該当するとして厚生大臣に対し保険給付を請求し、厚生大臣がその請求を棄却したこと、被控訴人は長崎県社会保険審査官に不服申立をなし、同審査官が右被控訴人の不服申立を立たないとする決定をなし、被控訴人が更に社会保険審査会(昭和二十五年法律第四十七号によるもの、以下旧審査会という)に不服を申立て、旧審査会が昭和二十六年十月二十三日附で被控訴人の不服申立は立たないものとする決定をしたことは、当事者間に争のないところである。

二、被控訴人は町中勇の前記死亡は職務上の事由によるもので右審査決定は違法であると主張するので、町中勇の前記死亡が職務上の事由によるものに該当するか否かにつき案ずるに、前記町中勇が昭和二十五年十月三十日午後二時頃漁業に到達し甲板長として漁撈に従事していたが、同年十一月三日午後七時三十分頃網揚げを開始しようとした際、急に肩の痛みを訴え暫時司厨室で休息した後作業に従事し、網揚げを終了する頃再び肩の痺れにより司厨室で休息していたが同日午後八時四十分頃死亡するに至つたことは当事者間に争なく、この事実と原審における証人松脇政吉同別宮小三郎の各証言、成立に争のない乙第一号証の二、第五号証、第六号証によれば、

(1)  前記町中勇が甲板長として乗組んでいた第十五金章丸は昭和二十五年十月二十七日長崎港外香焼島を出港し、同月三十日午後二時頃漁場に到達し、十一月三日まで漁撈に従事したが、同日は早く作業を終るため夜七時半頃から網揚をした。町中勇は右舷のワイヤーを捲いていたが間もなく身体の具合が悪くて司厨室で休み、ワイヤー捲が終りロープが出て来た時再び出て来てロープを引いていたが、ロープが終りストッパー(網をとめる器具)をきる段になり、同人は手がしびれてこれをきることができないまま一時その場にかがみ込み、やがて再び司厨室に退いて休息した。その時町中は胸が苦しい今度は死ぬかも知れんと訴えたので、船長松脇政吉がコロダインを茶碗に一杯のませ更に大蒜の汁をのませた。町中勇は間もなく便所に行きたいと言い、船尾で用をすませ、帰つて来て気分がよいとすやすや眠つたが、手足が冷え脈が次第に弱くなり、約十分で死亡した。

事実を認めることができ、右認定を左右するに足る格別の証拠がない。

しかして原審における証人松脇政吉同別宮小三郎の各証言と原告(被控訴人)の尋問の結果及び成立に争のない甲第二号証乙第十号証第十二号証によれば、更に、

(2)  前記町中勇は、その四十才の頃から両肩が凝ると称し按摩などに揉ませることがあつたが、ほかに格別の疾病なく首筋が凝るとか胸がいたいとか動悸がするとか浮腫があるとかの症状は全くなく、健康体であつて、平素晩酌二合位を飲んでいたこと。

(3)  右町中勇は、昭和二十五年九月三十日川工病院において健康診断を受け、聴診器により心雑音が発見され、一旦その船員手帳にその旨記載されたが、同人がかけ足で来て診断を受けた事情と右心雑音が軽微であつたことからその記載が抹消され、異常なしと記入されたこと、右町中勇は同年十月二、三日頃第十五金章丸に甲板長として乗組み、同船は僚船第十六金章丸とともに以西底曳漁撈に従事し、同月二十二、三日頃佐世保港に水揚して香焼島に帰り、その漁獲は十一、二日間の漁撈にして「しず」大箱二千八百箱の大漁であつたが、同人は病気もせず、同月二十七日再び右第十五金章丸に乗込み漁撈に出かけ、その間網の修理出港準備に休む暇なく、自宅に帰つても身体に格別の異常のなかつたこと、右第十五金章丸は同月三十日午後二時漁場に到達し漁撈に従事したが、町中勇は仕事がひどい肩が凝るともらし通信士福田実が肩を揉んだこと。

が認められ、前記松脇政吉別宮小三郎の証言と原審及び当審における検証の結果によれば、

(4)  前記第十五金章丸は無線通信士を含め乗組員十一名僚船第十六金章丸は無線通信士が乗組まないので乗組員十名であつて、いずれも船長、機関長、甲板長、コック各一名を除いた他の六名で漁撈に従事することになつているが、通常は機関長、コックを除く他の八名で漁撈に従つていたものであること、漁撈は朝四時半頃網を入れ、最終の網を夜八時頃揚げ、後始末をすると毎夜十時を過ぎること、主船僚船は各一個の網をもち交互に入れ、網を曳くのは、朝夕は、二時間半から三時間、昼間は、一時間四十分位で、網を海中に入れ網の一端のロープを僚船に渡し併行して曳くのであり、網を揚げるのは、網にはロープとワイヤーがついており、ワイヤーは五、六百米ロープは四百米で、最初船尾についているローラーにワイヤーをのせて船の左右舷の両方に設置してある動力によるロープ捲器(ウインチ)に五、六回捲きつけ、その先端を舳に備付けてある手捲によつて手で捲いて行き、ワイヤーが捲き終つてロープになつたときは手捲きを止めてロープを輪に積み重ねて行き、このロープも動力で捲いているが、手捲器を使わずに別な場所に輪にしておき、ワイヤー捲きは約十分、ロープは約五分で網が揚つて来ると、手で船の中に引きあげ、魚の入つたままマストに吊り上げ、魚を船中に出して魚の始末をして、魚槽に入れること、主船が網を揚げて魚を出すと、僚船は直に別の網を入れるので、両方の船がこれを曳き、その間に主船の方で魚の始末をし、次に入れる網の準備をする、この時は甲板長が先頭に立つて指揮すること、船長、機関長、通信士を除いた八名で当直するが甲板長以下の人が眠る時間は大体五時間半から六時間であるが、東支那海では中共に拿捕される虞があるので一時間交替で当直に当ること、前記十月二、三日から十月二十二、三日までの漁撈は、一網五十箱から多い時は百二十箱もあり、十一、二日の漁撈で「しず」大箱二千八百箱の大漁であつたこと、十月三十日から十一月三日までの漁撈は、僚船の網を含めて十四網を曳き「しず」約八百箱の漁獲があり、当時の天候は風速三か四の状態であつたこと

が認められ、以上の事実と当審における鑑定人上野正吉の鑑定の結果を併せ考えると、町中勇の前記死亡の直接の原因は狭心症の発作による心臓麻痺と認められるのであるが、「前記町中勇は、心臓弁膜症ではあるが恐らく大動脈弁附近に比較的軽微な病症があつて、これに持続的重労働による心筋肥大乃至拡張が加つて漸次増悪していつたが、死亡当時までは充分機能が代償されていたものであつて昭和二十五年九月三十日の川工病院における健康診断において、この状態が心雑音となつて聴取されたものであるが、漁場に到達後は更に悪化し身体に違和を感ずる程になつて、持続的重労働に従うときは、あるいは冠状循環不全となり場合によつては狭心症を起すかも知れないような状態に進行していた。かような状態のところ、十月三十日から十一月三日まで甲板長としての労働に従事し同日午後七時三十分頃ワイヤー捲きのとき狭心症の小発作をおこし約十分休んで更にロープを引き再び重篤なる狭心症の発作をおこし遂に死亡するに至つたこと」を認め得べくこれと抵触する原審における鑑定人横田素一郎の鑑定の結果はこれを採用せず、また当審における証人浜野規矩雄の証言は前記証拠に照らし措信し難い。よつて右町中勇の死亡が船員保険法第五十条第三号の「職務上の事由に因り死亡したるとき」に該当するか否かにつき考えるに、船員保険法においては、職務上の事由による保険事故の発生の場合と職務外の事由による保険事故の発生の場合とを区別し、その保険給付及び費用負担において、それぞれ差別を設けているが、何を職務上の事由とし何を職務外の事由とするかの基準については、何らこれを明らかにするところがない。船員保険において、かような区別をなす所以は、職務上の事由により保険事故が発生する場合が船員法第八十九条以下の船員が災害を受け船舶所有者に補償責任のある場合、労働基準法第七十五条以下の労働者が災害を受け使用者に補償責任のある場合に相当するので、これを一般保険事故と区別し、労働者災害補償保険と同様の趣旨で保険事故となしたものと考えるのが相当である。この点から考えれば、職務上の事由に該当するか否かは、船員法第八十九条の「職務上負傷し又は疾病にかかつたとき」労働基準法第七十五条の「業務上負傷し又は疾病にかかつた場合」同法第七十九条の「業務上死亡した場合」労働者災害補償保険法第一条の「業務上の事由」などにおける「職務上」「業務上」と同様に解すべきであつて、職務と事故との間に原因結果の関係があるだけでなく事故の原因を職務に帰せしめて他に帰せしめないことが、社会観念上妥当であると判定される場合すなわちかかる職務に従事したればこそかかる結果を生じたものと判定することがわれわれの社会常識上公平であり、また当然であると考えられる場合であるかどうかいわゆる原因と結果との間に相当因果関係が有るかどうかによつて、これを判断するほかない。いま町中勇の前記死亡につきこれを考えるに、前記認定の事実によれば、前記十月三十日から十一月三日までの町中勇の労働が激しいものであつたことを認め得るが、従前の同人の漁撈労働に比し特に激しかつたものと認めることは出来ないのであり、鑑定人上野正吉の鑑定の結果によれば、町中勇の心臓弁膜症は重篤なものでなく、通常の労働に耐え得るものであつたこと及び前記十月三十日から十一月三日までの労働がなかつたならば狭心症の発作は生じなかつたであろうし、また第一回の発作の後適当な加療上の措置をとり労働しなかつたならば心臓麻痺を生ずるに至らなかつたであろうことが推認されるのであつて、町中勇には心臓弁膜症があつたとはいえ、これが直接前記死亡の原因となつたものと断ずるに由なく、前記十月三十日ないし十一月三日までの労働によつて右心臓弁膜症を増悪させ十一月三日午後七時三十分頃の労働により第一回の狭心症の発作を生じ、陸上であればおそらく入院その他療養につき適切な措置をとりえたであろうが、海上漁船内では適切な措置をとることができない状態の下に更に重労働に従事したため第二回の発作を生じ、遂に心臓麻痺を起し死亡するに至つたものと考えるのが相当であつて、かように考えれば前記のように労働したことが前記死亡という結果の発生につき一般的であり、かつ欠くべからざる原因となつたものといい得るのであるから、前記死亡は町中勇の右職務上の労働によるものと考えざるを得ない。

三、然らば前記審査決定は違法にして、被控訴人のこの点の請求を認容すべきであるので、原判決は相当であつて本件控訴は理由がない。よつて本件控訴を棄却し、控訴費用につき民事訴訟法第八十九条第九十五条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 岡咲恕一 龜山修平 脇屋寿夫)

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